私は懲りずにエリックの湖へと通い続けていた。
あの衝撃的な夏の日から1週間が過ぎた。
彼はついにクリスティーヌへの一歩を踏み出そうとしているかもしれない。
それを止められるのは、きっと私だけなのだ。
私は湖の近くまで来て足を止め、耳をすませた。
またエリックが泳いでいるかもしれない。
そしてまた見つかってしまえば、今度こそ私はどうなるのかわからない。
しかし、前回の様な水の音は聞こえない。私は安心して先へ、エリックの家の方へ進もうとした。
その時、
カチャ…
エリックの家の扉が開く音がした。私は大いに焦った。
エリックが外出する!ここにいればどうしても見つかってしまう。どうすべきか…!
しかたなく、私は足早にもと来た道を引き返すことにした。
一時しても、エリックが外へと出ていく気配はなかった。
道の陰に伏せて隠れていた私は不審に思い、身を起こした。
先ほどまでいた湖の方向に目を凝らした。
やはり、エリックが向かってくるどころか何かが動く気配すらない。
私はカンテラの明かりは消したままでもう一度湖へと向かった。
私は前回そうしたように湖のほとりの陰へと身を隠した。
相変わらず水の音は聞こえない。私はゆっくりと湖の方を覗いた。
「…っ!?」
私がいるのとは反対の岸にエリックがいた。
そしてエリックは前回着ていたのと同じ、無駄に胸元のあいたふりふりの水着を着ている。
しかし、たいそう奇妙だった。
目には白い布で目隠しをし、めんぼうのような木の棒を両手でしっかりと持ち、その場をうろうろしているのだ!
私は見てはいけない何かを見てしまった気がして、エリックから目をそらした。
しかし、そむけた視線の先にあるものに私は再び目をみはった。
エリックから数歩先の床には大きな、丸い何かが…そう、すいかが置いてあったのだ!
一体何の儀式なのか私にはさっぱり分からなかった。
そしてエリックは例によって、隣に置いているイスの上にあの時と同じクリスティーヌ人形を座らせていた。
「クリスティーヌ、さあ、クリスティーヌ…指示を出しておくれ。右かね。左かね。」
もちろんクリスティーヌは応えない。しかしエリックはしきりにクリスティーヌに話しかける。
「クリスティーヌ?そうか、左かね。わかった、……ここかな?」
そう言って、エリックは突然棒を大きく振りかぶって床に叩きつけた。
ガンッ
石造りの床がむなしく音を響かせた。
陸は残念そうに口をとがらせて、またもやうろうろし始め、
「なんだ、クリスティーヌ…ちがうじゃないか。え?もっと前?わかった…ここかな…うわおぅっ!!」
そのまま湖へと落下した。
私は恐ろしくなり、エリックがもがく音を聞きながら静かにその場を去った。
夏に一人遊びは止めてくれ。
日本の「スイカ割り」というそうだ。ジャポニズムの先取りも大概にしてくれ。
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