創作小説と、「オペラ座の怪人」二次創作小説を載せているブログです
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上田は困惑した顔で先ほどと同じところに座っている。
私は冷蔵庫からお茶のペットボトルを持ってきて、空になった自分のコップに乱暴に注いだ。
「上田さん、なんで離婚したんですか。」
いらだった時はいつも声がかすれてしまう。私は咳ばらいをした。
上田は私の声にも咳払いにも怯えた表情をした。
「どうして…そんなこと聞くんですか。」
上田からもかすれた声が出た。
「どうしてって…あなたが離婚してしまったら私が畑本健輔を殺した意味が無くなるじゃないですか。畑本健輔の死が無駄にならないほどの理由があっての離婚ですか。私はそれが聞きたい。」
私は息継ぎもせずにそこまで言って、お茶をぐいと飲み干した。
上田は一瞬の間をおいて、眉間にしわを寄せながら言い返してきた。
「それは、あまりにも個人的な質問ではないですか。あなたに言う必要は…あるんでしょうか。」
私は苛立った表情の上田から目をそらして、また窓の外を見た。
相変わらず騒音を轟かせて工事が続いている。
「私は初めに言ったはずですよ。私は、本当に納得のいく理由があるときだけ仕事を引き受けるって。あの時、あなたは確かに私を納得させたんですよ。でも、それって…あなたが離婚してしまったら成立しなくなる理由じゃなかったんですか?」
上田を見ると、眉間のしわは消えていたが、腑に落ちない顔をしていた。
「5年経てば状況だって変わるでしょう。」
「まだ5年ですよ。」
「秋成さん、」
そこで上田はまっすぐ私の顔を見た。
「あなたこそ、そんなこと今さら言ったって…畑本健輔は5年前に既に死んでるじゃないですか。まぎれもなくあなたが殺したんじゃないですか。」
「それを言ったらおしまいですよ、上田さん。」
私も負けじと上田の顔をじっと見た。若返ったのは服装だけか。
「とにかく、私を納得させるまではかえしませんよ。」
「このままでは、何を言っても納得してもらえないと思うのですが?」
私はにやりと笑った。確かに、と思いながらペットボトルに手を伸ばす。
一方の上田は相変わらず固い表情だった。
「…どうしたんですか。言わないんですか、上田さん。」
「個人的な話には興味がないって、5年前に言ってませんでしたっけ。」
私はそんなことを言った記憶もなかった。
「さっきから言ってますけど、私は上田さんのプライバシーが知りたいんじゃないんですってば。」
上田はまだ嫌そうな顔をしている。私は単純に「価値観の相違」などという理由が返ってくるかと予想していたのだが、上田が思った以上に渋るので、何か複雑な理由でもあったのだろうかという気がしていた。
「『価値観の相違』…って言ったらどうしますか。」
私は心を読まれたようでドキリとした。上田は探るように、試すようにこちらを見てくる。
私は目を細めて上田を見て言った。
「…納得はしませんよね。ついでに言うと、私は殺し屋なんですよね。上田さん、知ってました?」
上田は少しだけ顔を強張らせた。この空気では冗談に聞こえないこともないのか。
「そうしたら、秋成さんは私を殺すんですか?」
私はそんなことないだろう、と内心で笑いながらも、無表情を保ってお茶を飲み干した。そして、無言のまま上田を見つめた。
上田の表情は面白いほどみるみるうちに青ざめていった。
「…やっと状況が分かりましたか。」
面白くなってこんなことを呟いてみせると、上田は額に汗を浮かべて
「…で、でもあなたには私を殺す理由がないでしょう。」
とかすれた声で言った。
「理由?『私を納得させなかった』でいいじゃないですか。」
「そんな…支離滅裂じゃないですか。」
確かに乱暴すぎる。私はまたもや心の中で笑った。
「あなたは私のそんな美徳をけなしたじゃないですか。」
「そんなつもりはっ…」
私はこのくらいでいいだろう、と思い、
「では、そろそろお話を伺っても?」
と言ってにこりと笑った。
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私は冷蔵庫からお茶のペットボトルを持ってきて、空になった自分のコップに乱暴に注いだ。
「上田さん、なんで離婚したんですか。」
いらだった時はいつも声がかすれてしまう。私は咳ばらいをした。
上田は私の声にも咳払いにも怯えた表情をした。
「どうして…そんなこと聞くんですか。」
上田からもかすれた声が出た。
「どうしてって…あなたが離婚してしまったら私が畑本健輔を殺した意味が無くなるじゃないですか。畑本健輔の死が無駄にならないほどの理由があっての離婚ですか。私はそれが聞きたい。」
私は息継ぎもせずにそこまで言って、お茶をぐいと飲み干した。
上田は一瞬の間をおいて、眉間にしわを寄せながら言い返してきた。
「それは、あまりにも個人的な質問ではないですか。あなたに言う必要は…あるんでしょうか。」
私は苛立った表情の上田から目をそらして、また窓の外を見た。
相変わらず騒音を轟かせて工事が続いている。
「私は初めに言ったはずですよ。私は、本当に納得のいく理由があるときだけ仕事を引き受けるって。あの時、あなたは確かに私を納得させたんですよ。でも、それって…あなたが離婚してしまったら成立しなくなる理由じゃなかったんですか?」
上田を見ると、眉間のしわは消えていたが、腑に落ちない顔をしていた。
「5年経てば状況だって変わるでしょう。」
「まだ5年ですよ。」
「秋成さん、」
そこで上田はまっすぐ私の顔を見た。
「あなたこそ、そんなこと今さら言ったって…畑本健輔は5年前に既に死んでるじゃないですか。まぎれもなくあなたが殺したんじゃないですか。」
「それを言ったらおしまいですよ、上田さん。」
私も負けじと上田の顔をじっと見た。若返ったのは服装だけか。
「とにかく、私を納得させるまではかえしませんよ。」
「このままでは、何を言っても納得してもらえないと思うのですが?」
私はにやりと笑った。確かに、と思いながらペットボトルに手を伸ばす。
一方の上田は相変わらず固い表情だった。
「…どうしたんですか。言わないんですか、上田さん。」
「個人的な話には興味がないって、5年前に言ってませんでしたっけ。」
私はそんなことを言った記憶もなかった。
「さっきから言ってますけど、私は上田さんのプライバシーが知りたいんじゃないんですってば。」
上田はまだ嫌そうな顔をしている。私は単純に「価値観の相違」などという理由が返ってくるかと予想していたのだが、上田が思った以上に渋るので、何か複雑な理由でもあったのだろうかという気がしていた。
「『価値観の相違』…って言ったらどうしますか。」
私は心を読まれたようでドキリとした。上田は探るように、試すようにこちらを見てくる。
私は目を細めて上田を見て言った。
「…納得はしませんよね。ついでに言うと、私は殺し屋なんですよね。上田さん、知ってました?」
上田は少しだけ顔を強張らせた。この空気では冗談に聞こえないこともないのか。
「そうしたら、秋成さんは私を殺すんですか?」
私はそんなことないだろう、と内心で笑いながらも、無表情を保ってお茶を飲み干した。そして、無言のまま上田を見つめた。
上田の表情は面白いほどみるみるうちに青ざめていった。
「…やっと状況が分かりましたか。」
面白くなってこんなことを呟いてみせると、上田は額に汗を浮かべて
「…で、でもあなたには私を殺す理由がないでしょう。」
とかすれた声で言った。
「理由?『私を納得させなかった』でいいじゃないですか。」
「そんな…支離滅裂じゃないですか。」
確かに乱暴すぎる。私はまたもや心の中で笑った。
「あなたは私のそんな美徳をけなしたじゃないですか。」
「そんなつもりはっ…」
私はこのくらいでいいだろう、と思い、
「では、そろそろお話を伺っても?」
と言ってにこりと笑った。
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