2、疑惑
「ダロガ…どういうことか、分かるように説明したまえよ。」
冷静な陸の言葉で、教室内はしんと静まり返った。
クラスの男子は今度はダロガに注目する。
「どういうことって…、そのままの意味ですけど?」
「私にオペラを作れと?」
ダロガは少し考えてから、
「まあ…、提供してくれ、ってことだな。」
陸は目を細めてダロガを凝視する。
「まるで、私が自作のオペラをもうすでに持ってるような言い方だな。」
「持ってないのか?」
「逆に、なぜ持ってるのだ?」
すると、ダロガはニヤリと笑って、
「持ってるじゃないか。」
陸は真顔でダロガの顔を見て、意を読み取ろうとした。
クラスの男子はテニスの試合でも見るように二人の顔を交互に見ている。
ダロガはニヤニヤしながら、叫んだ。
「お前のロリコン時代をばらされたくなければ黙ってオペラを出すんだな!」
陸を含め、ダロガを除いたクラスの男子全員が呆然とした。
と、同時にざわめき始めた。
「え、陸ってロリコンだったのか!?」「いつの話だ…?」
「なんでダロガが知ってるんだ?」「アンダーどこまで!?」
一方のダロガは勝ち誇ったように笑っている。ははははは、と上を向いて笑っている。
しかし、そのざわめきはまたもや陸の一言で消えた。
「待て、ダロガ。」
「…?」
陸の顔に、もはや焦りも、驚きもなかった。いつもの、冷静な陸だった。
むしろ、余裕の笑みさえ浮かべている。
そして、陸はゆっくりと教壇のダロガへと歩みよっていく。
その姿さえ優美だ。
ダロガは息をのんで、身構えた。
「ダロガさん、何の事だかわからんな。
君もたいがいにしたまえ。
言っていい冗談と悪いものの区別ぐらい付けてほしいね。
私の『ロリコン時代』だって…?
笑わせるなよ、君。
それ以上何か言ったら…」
そしてダロガの耳元で囁いた。
「バラしたら、許さんぞ。」
「…認めんのかよ。」
陸はオペラのスコアを勢いよく教壇に叩きつけ、
直後、涙を眼にためたまま華麗に身をひるがえし、教室から走って逃げて行った。
その日から、陸のあだ名は「ロリコン仮面」になった。